セミじじいへ捧ぐ。

母の一番上のお兄さん(私の伯父さんにあたる)の話をするとしよう。


伯父さんは、私が子供だった頃から歌が好きでよくカラオケで歌を歌っていた。
私が大人になってもやっぱり歌が好きで、入れ歯なしで歌う歌は充分上手かった。


そんな入れ歯無しの伯父さんの頭は、私が物心ついた頃には髪も無しであった。


つーか、母方の兄弟はほとんど頭髪については全滅に近いんだけどね。
でも、二番目の兄の伯父さんは大手術からの奇跡の生還と共に、頭髪もうっすら生還してきて
それみた伯父さんが「いいなぁ」とひそかに羨ましがっていたのだが、従兄の子供に「バーコードじじい」呼ばわりされ
二番目の伯父さんに鏡越しから「うわっなんか眩しい!」と光の反射の指摘をされ、止めをさされていた。


以来、伯父さんの周りでは「鏡禁止令」が発布されていた。


そんな「バーコードじじい」は、数年後に「セミじじい」とあだ名が変更された。
なんのことはない、ただよくつけていたグラサンつきメガネのグラサンを上にあげた状態が
おでこにセミが止まっているように見えたからである。お気の毒。


腰が悪いくせにすぐうろちょろして迷子になり、うちの母に怒られ。
うちの中は禁煙だからたばこは外で吸ってね、と何度も言ってるのに、換気扇の下で吸って母に怒られ。
事前にバイキングに行くと何度もいってるのに、行ったら入れ歯を忘れてきてて母に怒られ。
自分の弟の義父の法事にジャージで行こうとして母に怒られ。


まぁ散々な言われようだが、このじじいはそれでもいつも底抜けに明るい笑顔(入れ歯無し)だった。
だからすげーめんどくせーじじいだったのだけど、私達は大好きだったのだ。


その、底抜けに明るい笑顔の、めんどくせーじじいが先週亡くなってしまった。


ほんと、あまりにも突然の出来事だった。
子供の頃から私達をすごくかわいがってくれて、すごく近い存在の伯父さんの寝顔をみながら
この師走の忙しい時期にいきなり私達の前から居なくなりやがって、どうしてくれようセミじじいと思い。


私は涙が止まらなかった。


なんでこんな穏やかな顔をしてる伯父さんの前で、泣かなきゃならないんだろう。


なんかちょっと悔しかった。


悔しかったから、これから伯父さんの思い出を語る時は大笑いしながら話すことにします。
ので、伯父さんは天国からまだこの世に居る兄弟を見守ってください。
ついでに私も見守ってくれたらうれしんですけど。


つーか天国に居るよね?


いや、居るだろ。だってね、あの頭には天使の輪がよく似合うもの。


うん、セミのサングラスよりも似合うよ。


そんな訳で、伯父さん。いろいろ、ありがとねv
合掌。