三島ばっかじゃん。


たまりに溜まっていた三島由紀夫の本を一気に3冊読破。


「沈める滝」
男女の互いの感情をさらけ出すような愛仕方が出来ない昇が不感症の女、顕子に出会い
その不感症のままを愛そうと、更にその為にダム建設の山奥に篭り人工愛を創りたてようとする。


うむ。確かに不感症と言う言葉は魅力的だ。
なにも感動することがないということは、自分にもその感情をぶつけることも無いから
その感情に惑わされて自分が傷つくことはないということだもの。
石や鉄は言葉も気持ちもない。だから自分だけの感情だけですべてが成立できる。
でも人は言葉も気持ちもあるから自分だけの感情だけでは成り立たない。


ダムは人が作らなければ完成しない、滝は誰に作られることもなくそこにある。
昇は顕子が不感症だったからこそ、自分の妄想や虚空の自分だけの顕子を作り上げたかったんだと思う。
だから顕子にはいつまでも不感症でいてほしかっただろうし、始めから顕子の本心などどうでもいい。


でも、止めようとしても流れ落ちる滝の水。
溺れないようにするには、流れてくる根源から壊してしまうしかない。
その感情で作り上げられた自分の中の顕子を壊されたくなかったんだろうな。


結局、自己主張の強い我侭男と、それに振り回される希望を捨てきれなかった女の話だよな。
(身も蓋も無い/汗)



「青の時代」
金持ちで、成績優秀、東大生の誠が人に騙されたことをきっかけに、若くして金融会社を設立する実話。


確かに子供の頃ってのはどうでもいいものを無償に欲しがったりすんだけども
たぶんその時はそのどうでもいいものが自分にとって光り輝く宝物に見えてんだと思う。

でも誠はそれを宝石と見るのすら許されなくて、親が子供に与えようとする宝石は学歴とか世間の名誉とかで
更に感情は父によって押さえつけられ、卑屈で疑い深い性格になってしまい
大人になるにつれ、そこから生まれた自意識過剰はどんどん悪化していき
自分の固定概念の中にのみ、真実も希望も愛もあると思い込んでしまった。


そしてその固定概念は一切開放されることはなく終わってしまったんだろう。


たぶん、誠は純粋に愛情が欲しかったんだと思う。
親の都合での抱擁ではなく、探りいれる友情でも、駆け引きされた恋愛でもなく
誰でもいいからただ無償の愛でそんな自分を受け入れて欲しかったんだと思う。

自意識過剰ってのは、イコール自分を見てもらいたいってことなんじゃないの?
反省癖があるのは、常に満たされてない自分への苛立ちがそうさせるんじゃないの?
なんでもいいから認めてもらいたかったんだよ、自分自身を。


最後のページの昔欲しかった鉛筆の模型と、重なる誠の従兄と少女の仲良さそうな風景。
手に入れたかったのは学歴でも金でもない、案外そこら辺にあるどうでもいいものだったかもしれない。


ああ、悲しいなよな。すげー孤独だよ。


でも結局、秀才であれど、精神はまったくもって子供の頃から成長できなかった男が
設立した会社を持てあまして自分を追い詰めてしまったって話だよな。(そして元も子もない/汗)



命売ります
ふと死にたくなった羽仁男が自殺に失敗し、そこで思いついた「自分の命売ります
そこからいろんな危険にあって辿り付いた命の行き先。


これ、三島には珍しく現実味の無い、ハードボイルドな小難しく無い読みやすい話だと思う。
命を売り出してからの羽仁男の危険な体験な数々が「ありえねーっ」て感じだもの。
でも最後の最後にこの「ありえねーっ」がすごくこの小説を上手くまとめてるとこがやっぱ三島ですね。


命亡くすのは簡単ですよ。簡単だから、死のうとして死に切れなかった人ってのは
「このバカモン、せっかくの命を死ぬという安易な答えで誤魔化しおって
 死のうとした罰じゃまだ生きて苦しめ」
と神様が怒っているんだと思います。


この羽仁男は別に死のうとして死ねなかったことが別段苦しいことだと思ってないんだよね。
あ、自殺で死ねなかったの俺?んじゃ誰かに殺して貰うか。くらいの気持ちなんだよ。
だから全く読んでて羽仁男の危険な行動にハラハラしたりしない。


そんでもって、死にたい羽仁男と正反対の羽仁男にかかわる女の生命力。
それは肉体から漂い、禁欲から漂い、唇から漂い、瞳から漂う。
その「生」か「性」かが、まるで「死」と背中合わせのように繋がっていて面白い。


最後の女、玲子が「幸せの状態で死にたい」と思う気持ちはありきたりなリアリティかもしれないけど
この言葉が一番生と死が表裏一体であるということを表現してるんじゃないのかな。
だから自分が漠然としか「死」について感じることが出来なかった羽仁男は
この生命力みなぎる玲子の本気の「死」に恐怖を感じたんだと思う。


そして死のうと思っていた羽仁男にも罰がまっている。
それは玲子の異常なまでの羽仁男への執着でもなく、どこへ逃げても追いかけてくる麻薬組織でもなく


最後の最後の星の下の一人きりの羽仁男。


つまりは死ぬことすらも自分で責任を放棄した奴には生きて地獄を見せないと
バカにつける薬は他にありませんよという話だよな。(でもって最後、身も世も無い/汗)



この他に後三島本3冊残ってます。汗


ちまたじゃGWじゃありませんか。私は5月病防止の為に働きます。
(万年5月病ですが)