あいまいなる甘美


谷崎潤一郎 「春琴抄


初めての谷崎、読んでびっくり。
かしこまった折り目正しい隙の無い文章、なのにすごい読み易い。


なんか、不思議な感覚だ。
今まで読んだ初期の三島や太宰、美しい文体を書く芥川の作品すらも読んでてこんな感覚はなかった。
一見堅苦しそうな、まさしくこれが純文学なのであろう取っ付き辛いそうな文体が
読んでいて、全く敷居の高さが感じないし、取って付けたような厭味がない。
難しいのに読み易いというのは、それほどこの内容がいいということで、もちろんそうなんだけど
まるで「読む」という意識無くスラスラページが進んでいくんだから、なんか感動。
後、話の流れや心理描写があいまいだから読み手のそれぞれの受け止め方でどうとでもなるという所もいい


幼少時代から盲目の春琴を全身全霊で世話する丁稚の佐助。
その絶対的な主従からなる佐助の忠義心は、自分自身の目をも閉ざしてしまう結果になるのだけど
もうあそこまでいくと、愛とか忠義通り越して自分自身の「嗜好」の域に達してしまっているように感じる。


春琴に己のすべてを捧げ、巨細余すことなく知り尽くし外面上での役割は十二分に果たしているが
それでも強く求めるがあまり春琴への崇拝が現実を遥かに上回って
自身の精神の妄想世界に篭ってしまったのであれば
佐助が盲目になることなど、なんの容易いことだったに違いない。


現実の春琴の感触を確認しつつ、盲目の中でも己の中の理想である春琴は崩れること無い。
そうなると、佐助が盲目になるということは「究極の引きこもり」手段だったんだなと思う。


しかし、佐助の目を潰す描写が読んでて痛い。もう読みながらうぎゃあとかいいながら悶えてたもの 汗


逞しいですね、Mは。