太宰にときめく。


谷崎潤一郎 「刺青・秘密」


谷崎短編。昔刺青を入れたいと思っていたが、こうも肌が弱いと入れないでよかったなと思う。
刺青って、昔は我慢比べに入れてたっていうけど、やっぱ痛いんだろうな〜熱出るとかいうし。
その苦悶の表情を感じ取りながら墨を入れていくなんて、確かに彫り師ってSっぽい


どこかしらSMを感じさせる谷崎の話はSよりもMへの感情移入が強い。
「少年」の幼心に思う残酷さと美しくも甘い少女の威圧感とか
幇間」の生まれ持っての太鼓持ちの悲しい性と呆れるほどの体たらくぶりとか
「異端者の悲しみの」貧しさ故に心に育った卑屈さに溺れたと悲しみと懺悔
「二人の稚児」の欲望への開放と封印。


どの作品も押さえつける者の感情の希薄さと押さえつけられた者の心情の細かさがはっきりしていて
痛みと苦痛の落胆と快楽を拒みながらも受け入れてしまうその諦めと図太さにすごい生命力を感じる。


のた打ち回らんと、強さは得られんよ。M最強。



太宰治 「新樹の言葉


すんげー久々の太宰。やっぱおもしろい、を超えて、愛しい。読んでてメロメロ。


太宰って特別独特な文体な訳じゃないし、話の内容もそんな驚くような展開とかないんだけど
どうしてこうも気持ちが高揚するのだろう。


今回は短編。全体通して相変わらずデカダンさることながら、その主人公の周辺は暖かくて
どうしようもない荒み加減とその悲痛にほのぼのとした救いがある。


世に言う「普通」を取り戻そうとすればするほど、自分を追い込んでしまう
しかもそんな自分は許されてしまうし、どこかしら恵まれている部分もある。
それが益々負い目を感じ、自らを痛めつけることで精一杯保とうとするんだけど
その行為は世間に認められることは無い「異端」にたどり着く結果になり、結局ふりだしに戻ってしまう。


異端が悲しみを知らないわけではない、人を愛さないわけでもない。
だけどそれすらも伝わらないというならば、自己弁護を続けなければ
やはり残る道は破滅しかないじゃないか。


太宰の書く人間像は心底不器用で愚かで、傍に居たらかなり迷惑な存在だろうけど
あなたも私も所詮は同じ穴のムジナですって言ってあげたくなる。


だからこそ、「愛と美について」と「兄たち」は
その作品から溢れる肉親への愛情が隠し切れないくらい伝わる。
生半可にあからさまな愛を問う小説よりも響くその照れ隠しなひねくれた表現は
苦笑いしながらもずっと傍に居られる安心感と愛しさがある。


火の鳥」も未完ながらも、あの最後で話が成立してしまってるくらい余韻の残る作品。


なんか、太宰の頭よしよししてあげたい。罪な奴 笑